既得権益(宮台真司)

自決前の三島由紀夫は「日本はからっぽ」と書いた。日本では一夜にして天皇主義者が民主主義者に豹変する。価値を貫く構えがなく、上と横を見てポジション取りをする。丸山眞男も同じことを言っており、近代という物差しから見た「日本人の劣等性」だと見ている。日本人は縄文の昔から「和を以て貴しとなす」で、自らを貫徹して闘うことより集団の調和を重んじてきた。そして江戸時代には移動が禁止され、人々は周りにいる人と一緒に一生を過ごすようになった。かくて御上に媚びる「ヒラメ」や、周囲を見て浮かないようにする「キョロメ」のメンタリティが強化された。山岸俊男の調査で、「日本人は所属集団でのポジション争いに執念し、すべての集団を包含するプラットフォーム(公)には貢献しない」ことが分かっている。「公(パブリック)」は自力で市民社会を建設した欧米の概念で、日本には存在しない。ヒラメやキョロメが大切にするのは「公」ではなく、自分自身の安寧だ。この「日本人の劣等性」が日本衰退の原因なのだ。 劣等性を抱える日本人は、「既得権益」を動かすことができない。本来は時代とともに生産性の高い分野に資本(人・物・カネ)を移動させることで経済は発展するが、日本では既得権益を温存する力が強すぎて産業構造の変化が起きない。政府は法人減税分を消費増税で埋め合わせ、正社員を守るために非正規雇用を増やしている。公共事業でも「電通・パソナ図式」と言われる中抜き構造が強固で、大ボス企業に役人が天下り、その役人が政策を立てる。さらに野党も先進国では標準的な「正社員・非正社員の区別廃止」と「労働力の公正な移行措置(所得保障と職業訓練)」を提唱せず、労働組合の既得権益を温存する。その構造を支えているのは国民自身なのだ。